フレグランス メゾン探訪 Ⅱ :新たな英国御用達ブランドの香り

フレグランスアドバイザー MAHO(2016.6.)

 

 東京駅丸の内にそびえる新丸ビル。その3階に位置するモルトンブラウン直営店を訪れた。

 

 RMKや資生堂ビューティーサルーンが並ぶストリートの一角に、すっきりとした陳列と落ち着いたブラウンでまとめられ、男性にも入りやすい

ダンディなショップが同店だ。

 

 1973年にロンドンでヘアサロンとして誕生。異国情緒漂う香りとスキンケア効果の両立を目指したボディケア製品を探求し、ブランドの名声を高めることになった’89年からのホテルアメニティラインは、良質とはいえない業務品が主だった時代にクオリティを重視した画期的なものだった。現在は、ロッテ ニューヨークパレスに代表される65カ国以上の高級ホテルにアメニティを展開し、世界的に知られるトラベル雑誌でも、ホテル信用度ポイントの一つとして、モルトンブラウンのアメニティ採用が挙げられている。かれこれ10年は経っていると思うが、私もモルトンブラウンを初めて使用したのはセルリアンタワー東急ホテルのアメニティである。ホテルの部屋は清掃・消臭してあるとはいえ寝つけない空気のなか、バスルームと自らのボディに残る爽快な香りが寛ぎに導いてくれたと記憶している。またボディウォッシュの美しいジェルカラーも魅力だ。

 

 そして2013年、エリザベス女王陛下からRoyal Warrant(英国王室御用達指定証)を授与されたニュースが入った。フレグランス製品をリコメンドしている私にはビッグニュースの一つである。2011年にも、フレンチ・パフューム・ソサエティより International Creative Perfumerを受賞した経歴を持つジェニファー ジャンボンをプリンシパル・パフューマーとして採用し、フレグランスの起源となった古代スパイスルートを巡る旅をコンセプトにした「ナビゲーション スルー セント」を初のファインフレグランスコレクションとして発表し、その動向は気になっていた。

 

 モルトンブラウンには、メンズラインのベストセラーである「ブラックペッパー」しかり、スパイスやシトラスの効いたユニセックスな商品が多く揃うが、2014年は「ハニーサックル&ホワイトティー」、そして今年4月1日には、英国らしいスズランをモチーフに、マンダリンと、中国ではパーフェクションの象徴として結婚するカップルにも贈られるというスターアニスをトップに効かせ、ミドルにマグノリアやピオニー、ラストへ向けてイランイラン、サンダルウッド、ホワイトムスクが広がる「デューイリリーオブザバリーオードトワレ」を発売した。フェミニンな香りも充実し、女性ファンも益々増えていくことだろう。

 

  

  モルトンブラウン新丸ビル店

 デューイ リリーオブザバリー 定番ラインナップ


 

日本が支えるパリ ブランド

 

 メゾン探訪をテーマにしているものの、単一ブランドの世界観が満喫できる直営店は殆どないのが日本の現状だが(ラルチザンパフュームの表参道店も昨年閉鎖)、パリへ行ったら必ず立ち寄るブティックのひとつが、1992年にオープンしたパレロワイヤルのセルジュルタンスのお店。

 

 足を踏み込むと目眩が起きそうな美しさで、彼の美学がたっぷりと感じられる。初めて行った際に、FEMINITE DU BOISとEncens et Lavande購入したことは忘れられない思い出で、今も私はそれをサロンのドレッサーに飾っている。日本未発売の釣鐘型のボトルに入ったシリーズは香りともに必見だが、今最もブランド的に熱い話題は、世界二つ目となる路面店をロシアのモスクワに出店したことだろう。パリとはガラリと違う内装のようだが、やはりルタンス独特の世界観が現れているという。

 

 もともとセルジュルタンスには、日本の資生堂が多大な支援をしていたことは周知だが、昨年このブランドの商標権買い取り締結をしたことが公になった。これを機に、世界の主要都市に旗艦店を出店し、香水需要の高い市場で売り上げを伸ばしていくことが予想される。今後の展開が楽しみであると同時に、ニッチだからこそキープされていた香りのコンセプトが、メインマーケットに合わせたものになってしまわないようにと密かに願っている。

先のモルトンブラウン ジャパン株式会社も花王のグループ会社である。

 

 何れにしても、日本の企業が世界のフレグランス市場に今後も大きく関与するというのは興味深く、また昨今の市場トレンドを物語っている話題だといえる。