日本の香り文化から見た丁子風炉Ⅱ

元ポーラ化成工業(株)研究所 佐藤 孝(2020.9.)

 

 前回は「大谷眞二氏所蔵の白薩摩の丁子風炉について」という宮中に関わる丁子風炉話題をお伝えしました。今回はなかなか丁子風炉の現物を見る機会がないという方のために、常設展示されている美術館、博物館をご紹介したいと思います。

 

京セラファインセラミック館に陳列されている丁子風炉

 

 現在、都市圏に所蔵されている丁子風炉は東京国立博物館、サントリー美術館、静嘉堂文庫美術館、京都国立博物館などですが、常設展示として見学ができるものはなく、いつ展示されるかも確約できません。

 

 筆者が調べた中で唯一都市圏の施設であったのが、京都市伏見区にある『京セラファインセラミック館』でした。(他にご存じの方はご連絡ください。) 京都でもあんなに多くの丁子風炉が作られていたのになかなか目の前で丁子風炉を見ることが難しい現状となっています。それだけ数も少なく貴重なものとなっているとも言えます。

 

 この館の設立は、京セラ株式会社が取り組む文化事業の一環として、平成10(1998)年10月に本社ビル二階に開館しました。ファインセラミックスを学ぶ学生や研究者の方はもとより、広く一般の方々に理解を深めていただきたいという願いから、稲盛元会長の主案で創業以来のファインセラミック技術の発展過程を公開しています。

 

  

   京焼「色絵松藤之(いろえまつふじの)丁字風炉」

    京セラファインセラミック館蔵


 

 陶磁器の歴史の変遷を壁伝いに時系列的に年表形式で表現したコーナーがあります。その壁の前にいくつかの壺や大皿などが陳列されており、その中に丁子風炉があります。京焼の逸品で、『京焼 色絵松藤之 (いろえまつふじの) 丁字風炉』と書かれています。

 

 このコーナーの監修が河原正彦氏 (元京都国立博物館名誉館員) のお名前を見た時、そうでなければ丁子風炉はなかったのかもしれないと思いました。是非、京都に行く機会があればお寄りいただければ幸甚です。

 

 また、地方でも丁子風炉が常設展示されている施設として下記に記載します。

 鹿児島市内にある、鹿児島市立美術館、長島美術館、また鹿児島県指宿市にある薩摩伝承館があります。これらにある丁子風炉は薩摩焼のものです。沖縄県那覇市内の沖縄県立博物館、那覇市立壺屋焼物博物館は丁子風炉の常設展示はありませんが、年間の中で展示される機会もあるということなのでご確認ください。沖縄の丁子風炉は壺屋焼のものが多く所蔵されています。

 

 京都を除くと都市圏にはなかなかありません。地方でも鹿児島、沖縄に限られますが、行かれた際にお寄りいただければ幸甚です。今でも常設展示されているのか学芸員の方に確認したところ、企画展などで丁子風炉が一時的に展示されなくなることもあるのでご確認くださいということでした。休館日や開館時間、展示なども直接お電話でご確認ください。

 

 この文章は令和元 (2019) 年7月5日~8月5日発行の『香料産業新聞』「その後の丁子風炉調査研究について」に掲載した一部を修正抜粋したものです。