香りと睡眠

調香師 佐野孝太(2018.02.04)

 

ストレスの多い現代社会、睡眠について問題を感じる人の数は増加の傾向にあり、おおよそ5人に1人が

睡眠に対して何らかの悩みを抱えていると言われています。

 

 睡眠に対する悩みと言っても、人によって入眠障害(寝付くのに時間がかかる)、熟眠障害(夜中に何度も目が覚め、眠りが浅い)、早朝覚醒(予定時刻よりもずっと早く目が覚め、そのまま眠れない)など睡眠障害のタイプは異なり、その原因も環境的要因(騒音や気温など)、生理的要因(時差ぼけ、昼夜交替勤務など)、疾病要因、心理的要因(ストレス、悩みなど)と様々です。

 今回は、調香師、薬剤師、両方の立場から、香りと睡眠について考えてみました。


 

睡眠障害の程度によって……

 

 睡眠障害の程度は「何となく」という軽度のものから、不眠症の症状にまで進んでいる重度のものまであると言われています。不眠症の症状にまで進んでいる場合には、医師による診断、治療、適切な薬の投与が必要となります。

 

 薬剤師の立場から睡眠薬について少しだけ触れると、現在使用されている睡眠薬は主にベンゾジアゼピン系の睡眠薬で、その作用はGABA受容体の作用を亢進して興奮や不安を除き睡眠を誘導する薬です。従来のバルビツール酸系の睡眠薬などと比較すると、耐性(使用量を増やす必要がある)、依存性などの副作用も少なく安全性は大幅に向上しています。さらに非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬なども開発されていますので、症状や原因によって医師が選択した薬を指示に従って服用することをお勧めします。

 

 しかし睡眠に問題を感じている人の多くは睡眠障害も軽度で、まだ通院や薬の服用を必要としていないケースが少なくありません。この段階では、香りによって睡眠を改善する可能性があるのではないかと考えています。

 

アロマコロジー効果の実証的な研究を実施

 

 過去に筆者らが取り組んだアロマコロジー効果の実証的な研究からも、みどりの香りやテルペン類などの植物由来揮発性成分のラットに対するストレス性高体温の下降促進、強制水泳後の運動量の回復促進、ヒトに対する鎮静効果の報告例があります。これらの研究は直接睡眠について実施されたものではありませんが、研究結果として注目されるのは、香りが健常時ではなくストレスに誘導された反応の抑制や、反応からの回復の促進に効果を示していることです。

 

 前述の通り、睡眠障害はストレスなどの心理的な要因によって引き起こされている場合が多く、ストレスに誘導された自律神経系や内分泌系の反応を抑制することは睡眠障害の改善、つまり睡眠の改善につながる可能性が高いと思われます。

 

現代人が抱えているストレスへの「香りの利用」

 

 睡眠障害の原因の1つは、多くの現代人が抱えている心理的要因(ストレス、悩みなど)だと言われています。なるべく重度の睡眠障害や不眠症の症状が起きる前に、眠りの質を高めることが重要です。眠りの質の向上のためには、環境の改善、適度な運動、趣味によるストレス解消などが有効であることは言うまでもありませんが、香りの利用もまた、眠りの質を改善する1つの有効な方法と考えらます。

 

 香りの選択は、使用者の自由で良いと思います。アロマテラピー関係の本を参考に精油を利用するのも良いかもしれませんが、お気に入りのフレグランス、芳香剤、石鹸などを利用するのも良いと思います。ただし研究結果も参考にすると、睡眠時の妨げにならない程度、つまり快適と感じる濃度よりやや弱めに濃度を設定することがコツです。

 

好きな香りでストレス緩和・快眠

 

 睡眠に対する香りの効果は、薬のような直接的な効果ではなく、睡眠の妨げとなっているストレスを緩和することによる二次的な効果と考えられます。またもう1つの面白さは、香りが記憶とリンクする特性です。嗅覚刺激によって、記憶が呼び覚まされることを多くの人が経験しています。

一度自分の睡眠に適した香りを探し出すと、一定の香りと快眠を得られた記憶がリンクすることが期待されるのです。

 快眠に適した自分の香りを探してみてはいかがでしょうか。