日本に咲く香り植物3

スイカズラの花の香りに魅せられて

 

調香師 堀田 龍志(2016.5.22.)

 

 今頃の季節になると、道路わきの土手など比較的日当たりの良い場所に、蔓性の植物であるスイカズラの白い花が、爽やかで心地良い香りを放ち始めるのをご存じだろうか?

 

初夏にはピッタリの香りを持つ植物スイカズラ  別名“忍冬”

 

 スイカズラは別名“忍冬”とも呼ばれる常緑の蔓性の植物で、英語名はHoneysuckle(ハニーサックル)、フランス語ではChevrefeuille(シェーブルフォイユ)と呼ばれ、花は白くその香りはジャスミンのような、ミューゲのような、清潔感のあるフレッシュな香りを持ち、ややレモンのような柑橘系の香りの部分も感じられる、まさに初夏にはピッタリの香りを持つ植物である。

 

 気温が上がる前の早朝の出勤時に、自宅から最寄り駅までのルートにある小さな林の端の土手で、しばし立ち止まってはこの白い花の香りを嗅ぐのが、私のこの時期の楽しみになっている。

 

ハニーサックルの香調印象

 

 嗅ぎ口は爽やかなレモンのような柑橘系の香りと同時に、ミューゲの花のフレッシュな清々しさに通じるリナロール(LINALOOL)の香りがしっかりと匂う。そしてホワイトフラワーならではの、ジャスミンやオレンジフラワーの花の香りと共通のインドール(INDOL)臭らしき匂いがかすかににおい、花らしさを一層引き立たせてくれる。

 香り全体には、ヘディオン(HEDIONE)のような、メチルジャスモネート(METHYL JASMONATE)のような、うっすらと甘いフローラルでハニーな香りが漂う花である。

 


 

身近なデザインにも

 

 スイカズラは、その蔓の巻く姿が美しい為か、洋の東西を問わず一つのデザイン(文様)として古い時代から使われて来ている。日本で唐草と呼ばれるデザインは、一般的にはこのスイカズラ(忍冬)の蔓や葉が絡み合って延びている様子を図案化した模様であり、遠い昔にギリシアで考案されたリズミカルな模様が、インドや中国を経て、仏教美術の装飾用として伝わり、日本風のデザインになって行ったものと考えられている。

 

スイカズラが使われているフレグランス

 

 スイカズラ(ハニーサックルやシェーブルフォイユ)の花の香りを取り入れたフレグランスも数多く見られる。我々日本人にはとてもなじみが深く、多くのトイレタリー商品の香りやスキンケア製品の香りにトリクルダウンされて来た、EAU DE GIVENCHY(オー・ド・ジバンシー)のホワイトフラワーの香りの中の重要なパーツとして、スイカズラの香りが使われていると言われている。

 

 またゲラン社のフレグランスであるアクアアレゴリア・シリーズの中には、その商品名に“Chevrefeuille”と付けられたものが以前にあったように思う。アニック・グタール社からも“LE CHEVREFEUILLE(ル・シェーブルフォイユ)”という名前のフレグランスが出されている。

 

 以前パフューマー達の調香にベース香料が良く使われていた時代には、フランスのDe Laire社(ドゥ・レール社は現在はもう存在しない会社だが、現在シムライズ社が受け継いでいる)から売られていた“Chevrefeuille No,6”など、有名なHoneysuckleのベース香料も色々有り、当時のフレグランスの香りなどに使われていたようだ。最近もまたホワイトフローラルの香りはトレンディな香調となっている為、スイカズラの香りはホワイトフローラルノートの一つとして使われるケースもあると考えられる。 

 

 まだこの花の香りを嗅いだことが無い方は、是非これからの時期、道端などで気を付けて探して嗅いでみて欲しい。

きっと清々しい気分になれるはず・・・。