フレグランスのプレス発表について

 

 当協会の理事には、調香師だけでなく、香りが生活者の手に渡るまでの間、プロモーションや商品企画等の立場から、プロフェッショナルとして長期にわたって活躍なさっている方もおられます。

 

 今回は、香水の専門誌の編集長として、多くの新製品発売のプレス発表の現場を経験なさってこられた、平田幸子氏に、今まで印象に残ったフレグランスのプレス発表について、綴っていただきました。香料業界内の方々であっても、普段は垣間見られないプレス発表会の雰囲気等を写真を交えてお楽しみください。


香りの専門誌『PARFUM』編集長 平田 幸子(2014.02.22.)

 

人と人の間に香りあり

 

 現代音楽の作曲家武満徹(19301996)氏は『音と音の間を確かめるために音がある』と語っています。1967年に作曲した琵琶と尺八の音楽作品、ノヴェンバーステップのジャケットにその興味深い言葉が記されています。また確か80年代後半日本に来日したフランソワーサガン女史が、“貴女にとって愛とは?”と言う質問に “それは人と人の間にあるもの”と答えられました。

 

 何でも勝手に好きな香りの世界と結びつけてしまう私は武満徹のその音の余白やサガンが語る愛の領域と同じく抽象的世界こそ香水の世界なのではと思っています。

 

新作香水発表会

 

 香水業界では発売前にプレス関係を招待して新作香水の発表会が行われます。

 

 必ずしも新作全てではありませんが比較的主要なブランドは話題の会場を貸し切って発表会パーティを開きます。規模は様々ですが、今年(2014年)になってつい先日1・22日にゲランの新作(3・1発売)ラプティット ローブ ノワールクチュールの発表会が行われました。

 

 2012年発売のラプティ ローブノワールをさらにグラマラスでセンシュアルな印象を強調した香りです。コンセプトは一昨年のネーミングにある黒いドレスに象徴される愛らしさと気品ある香りがさらにスリットの入ったクチュールドレスのようによりセクシュアルに魅惑的な香りです。シャンパンと美しいモデルが香りをアプローチし、華やかな時間が流れます。

 

 そんな時思い出すのは特に印象深かった香水の発表会です。

 同じくゲランの主催でしたが1989年発売のサムサラは、何とバンコクのマンダリンオリエンタルホテルで発表会がありました。その時には作家の森瑤子さんやファッション評論家の大内順子さん等と一緒でした。マンダリンオリエンタルホテルの前にあるチャオプラヤー川には、サムサラの大きな作り物を飾った船が行き交い花火が上がり、お食事はすべてサムサラの香りにちなんだスパイスとデザートのチョコレートがサムサラの形で中に赤い炎!(サムサラは赤いボトルです。)にはビックリしました。

 

ナイルの庭が上海?

 

 他に印象的な海外での発表会はエルメスのナイルの庭(2005年)とテール ド エルメス(2006年)です。

 

 ナイルの庭は思わずナイルで?発表会と喜んだのですが、残念上海でした。ただナイル河を見立てて上海の中を流れるとても素晴らしい古色豊かな川下りを楽しませて頂きました。

 

 画像にあるようにその船にはエルメスのスカーフが翻っています。テール ド エルメスでは大地がテーマですのでコート・デュ・ローヌのぶどう畑を見学しアヴィニヨンで発表会が行われました。

 

 そしてジャン・クロード・ エレナ氏から直接テール ド エルメスのコンセプトについてお話をお聞き出来ました。香りの発表会は主催者にとってはその香りのコンセプトから形作る訳ですからご苦労が多いとは思いますが、招待されるほうにとってはとてもエキサイティングな時間を味わえます。