グラス便り 2章

グラス便り 2章 調香師

調香師

 

  1960年代までは各香水会社は専属の調香師を抱えて香水を作っているところが多くありました。シャネルやゲランだけでなく、ジャンパトウ、 

 エルメス、ランバン、コティ、キャロンなどがそうです。70年代に入ってこのような専属調香師を抱えているのは経費が掛かりすぎるということで

 香水香料を香料会社に委託するようになり、シャネル、ゲランなどの老舗を除く殆ど全ての香水会社から専属調香師がいなくなりました。

 

  その頃プロクター・アンド・ギャンブルのある方が「今後はリーバやプロクターなどに多くの香水会社が買収されその結果として香水の世界でも 

 トイレタリーの市場原理が導入され、香水のトイレタリー化が進むだろう」と予測していましたが、歴史はまさにその通りに動き、香水が当たり前

 の商品になっていきました。これと同時に香水用の香料価格もどんどん下がり、処方から高級な天然原料が消えていき、グラスでも地元産の香料植

 物が加工されなくなっていきました。これにはチュベローズ、ヒヤシンス、バイオレットリーフ、オレンジフラワーなどがあります。

 

  その後21世紀に入るとニッチフレグランスの登場で状況は新しく変わってきます。アニックグタール、ラルチザン パフューム、ディプティック

 など独立系の香水メーカーはその創設者達の強い個性を前面に押し出すことによってファンの支持を受けることに成功しました。ちょうどこの頃

 大手香水メーカーはむしろマーケッティング先行でどうして最大公約数の顧客に売れるかという切り口から目新しい香りが出なくなっていた時期だ

 と思います。いわば世界標準化に対抗する個人、個性のブランドの登場と位置づけることができるでしょう。

 

  その後、フレデリックマルのように「香りの版元」という切り口や、メゾン フランシス クルジャンのように香水だけでなくホームフレグランス

 も含めたトータルな香りのデザイナー、更にはクライブクリスチャンのように超高級香水などかなり活発な動きがこのニッチ市場で出てきていて、

 香水市場の今後が楽しみです。18世紀の香水産業のようにグラスに工場もしくはアトリエ、パリにブティックという形の香水デザイナーが出てくる

 かもしれません。

 

グラス市遠望(1975年頃)

グラスの丘に咲くミモザ