クローブ(丁子)の香り

クローブ(丁子)は、コショー、シナモン、ナツメグと並ぶ四大香辛料の一つとされていますが、ちょっと年配の方々にとっては、胃腸薬や虫歯の時に通った歯医者さんを連想される方も多いのではないでしょうか。

香辛料の代表的な存在である為、直ぐに食品や薬品と結び付くことが多いのですが、香粧品の領域の中でも、昔から重要な香料原料の一つです。

調香師 堀田龍志 (2017.11.27)

クローブの精油について

その精油は、採油する部位によって3種類に分けられるのが一般的です。

最も一般的に知られているのは、前述したクローブの花の蕾(Bud)から採ったClove Bud Oil(クローブバッドオイル)ですが,蕾の形が釘に似ていることから、Clove Bud のことをフランス語ではGirofle Clou(ジロフル・クルと発音し“クローブの釘”という意味になる)と言います。日本語の「丁子」の「丁」の字は釘の形に似ており、同じような考えから名前が付けられていることは大変興味深いところです。その他の精油では、葉っぱや小枝から採油したClove Leaf Oil(クローブリーフオイル)も原料香料の一つとして良く使われていますし、採油はされていますがあまり需要は多くない、クローブの木の幹(ステム=Stem)から採ったClove Stem Oil(クローブステムオイル)が有るようです。どのオイルも水蒸気蒸留法で採られています。

091015 Clove Budの写真(Robertet).jpg

香粧品原料として使用されたクローブの歴史

では香粧品的目的でクローブの香りが使用されたのはいつ頃からだったのでしょう。

クローブにまつわる伝説として、一つの有名な話があります。時代は遡って、エジプトプトレマイオス王朝の最後の女王クレオパトラ(紀元前1世紀)が無類の香りの達人だったことは良く知られていますが、彼女はバラや麝香の香りをとても上手に使って、シーザーやアントニウス達のハートを射止めたことで歴史を変えたと言われています。そんな香りの達人であった彼女は、自分の乗る船の帆にクローブの香りを付けさせていたと伝えられています。その当時としてはとても貴重だったその香りを、彼女自身も大いに堪能していたことでしょうが、彼女の船が港に近づくと、まだ船影が見えないうちから風に乗って芳しいクローブの香りが漂ってきて、人々はクレオパトラの帰港を知ったということです。

 また日本におけるクローブの使用の始まりは、仏教の伝来と共に伝わって来たお香の歴史と重なります。現在のお香の原型とも言える各種の香料を練り合わせる技術は、奈良時代(紀元710〜794年)に中国から日本にやって来た鑑真和尚によって初めて伝えられたと言われています。平安時代になると(紀元794〜1192年)、それまで仏教の儀式の中でしか使用されていなかったお香が、香りを身に付けて楽しむ「薫物(たきもの)」として広く貴族社会に広がり、現代の日本からは考えられない程、もっと日常的にその華やかな香りを楽しんでいたようです。その中でも「黒方(くろほう)」と呼ばれる練り香は特にその香りが奥深く優雅であったようで、その処方の中でクローブは重要な原料として使われています。その香りのレシピは、12世紀末に書かれた「薫集類抄(くんしゅうるいしょう)」に残されており、「黒方の方(公忠朝臣)」として書かれていて、「沈4両(沈香のこと)、丁子2両(クローブ)、甲香2分(“かいこう”と呼び、ある種の貝の殻から作るもの)、薫陸1分(乳香こと)、白檀1分(サンダルウッド)、麝香2分(ムスク)」を混合したものとされています。江戸時代には丁子風呂なるものが流行り、その香りを身に付けたりして楽しんだようです。

近代のフレグランスの中での使われ方

近代のフレグランスの中では、天然クローブそのものの香りをスパイスノートとして使用したものや、主成分であるオイゲノール(合成香料)などの合成香料も含め、カーネーションの花の香りとして使ったものなど、多くのフレグランスが有ります。女性用では、古くは1906年のコティ−社から発売された“L’ORIGAN(ロリガン)”が有り、かって日本人女性に嗜好性の高かった、1948年にニナ・リッチ社から発売されたL’AIR DU TEMPS(レール・デュ・タン)や、1988年のカルバン・クライン社から発売された“ETERNITY(エターニティ)などがあげられます。その名前があまりにショッキングで日本でも当時話題になった、クリスチャン・ディオール社から1985年に発売された”POISON(ポワゾン)“などの香りの中にもその要素が見られます。

メンズ用でも、クローブオイルやオイゲノールの香りがスパイスノートやカーネーションの香りとして使用されているフレグランスが数多く存在します。

例えば、今でも女性にも人気の高い、ブルガリ社の“BVLGARI POUR HOMME(ブルガリ・プール・オム)”にもその要素が感じられます。

 

古い時代から重要な香り素材として使われて来ている、ホットでエキゾチックなクローブの香りを活かしたフレグランス製品やその他の化粧品や芳香製品が、これからも色々と出現して来るのを大いに楽しみにしたいところです。