ご当地の香り T

  香料開発をしているといろいろな依頼がやってくる。ここには書けないようなものにも香り開発はするが、もちろんここでは語らない、語れない(笑)。自己満足と思われるかもしれないが、語るべきは楽しい開発のほうで、どんな開発かというとご当地製品、旅行先のお土産として売られる製品の開発である。

ご当地フレグランスは地域開発に協力する事業で、北海道から沖縄県まで様々な香りが創られている。今まで秋田県角館町、秋田県小坂町、沖縄県美ら海水族館、静岡県掛川市、沖縄県石垣市等のご当地フレグランス開発を手掛けたが、どんな香りなのか順に説明しよう。

調香師 上田知典

秋田県角館町:武家屋敷に咲く枝垂桜

「角館」は江戸期の武家屋敷が保存されていて、映画のロケ地にもなるような風光明媚なところである。武家屋敷には枝垂桜が多くあり開花期にはそれは素晴らしい景色らしい。残念ながらその時期の訪問は叶わなかったが、ローズ(桜は薔薇科なので香りもローズ調である)を基調に武家屋敷の苔むしたイメージのグリーンやモスノートを調和させた落ち着きがあり爽やかな香水は今でも売られている。

秋田県小坂町:アカシア並木の香り

「小坂」は明治期に鉱山で栄えた当時の栄華を感じさせるような芝居小屋等が残っている街である。2001年に環境省が選定した「かおり風景100選」のひとつに「小坂町明治百年通りのアカシア」が選ばれ、アカシア並木をはじめ、町内全域で500万本といわれるアカシアからのかおりが漂うという。この風景をイメージして開発するという依頼だが、筆者はアカシアの香りを嗅いだことがない。アカシアの香りについて調べたがどこにも文献がない、取引先の調香師の方にご協力いただき、何とか作り上げた苦い思い出がある。アカシアの香り成分は半分弱がリナロールとのことだが、それほど配合してしまうとかなり生々しいので結局は8%配合に落ち着いた。嗜好を考慮し、最終的にはジャスミン基調で若干のシプレでグリーンが強い香調に仕上がったが、この製品は今では売られていない。桜の名所で桜の香水は売れるが、アカシアの香りに興味がある人はあまり居なかったようである。

沖縄県美ら海水族館:海と緋寒桜

「美ら海水族館」は語るまでもなく沖縄県本部町にあるジンベイザメが泳ぐ巨大水槽で有名な水族館である。ここの香りテーマはズバリ沖縄の海の香り、そして沖縄の桜である緋寒桜の香りを調和させることだった。緋寒桜の香りを筆者は嗅いだことが無い、たまたま開花期に訪問できたがこの花には殆んど香りない。持参した香り捕集装置を道路から遠く誰も近寄りそうにない木に5時間仕掛け、GCMSにて分析してみるとちゃんと成分特定が為されて一般的な桜の香りであることが分かり、GCMSの凄さを改めて感じた。緑多き島をイメージしたフレッシュなグリーンが効いたマリンノート基調で桜の香りを若干調和させた爽やかな香りとして現在でも水族館等で売られている。

日本各地の自然と文化を香りで表現する楽しさ

観光も、珍しい食文化にも出会えることができ、非常に楽しい仕事である。

前述の掛川市や石垣市やその他のご当地の香りについては次回語ることにする。